人材ビジネスコラム

アメリカの年齢差別禁止法

藤川 恵子[著]  / 2007-10-22  / ブックマーク はてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録

 本年10月1日から改正雇用対策法が施行されている。これにより募集・採用時の年齢制限が禁止となり(改正前は努力義務)、事業主は労働者の年齢を理由として募集または採用の対象からその労働者を排除できなくなった。終身雇用に近い長期雇用制や定年制を根幹とする雇用制度をもつ日本が、募集・採用時に限定するとはいえ、年齢差別禁止制を導入することは大きな改革である。長い間「35歳まで」といった求人票や求人広告に泣かされてきた中高年の転職が少しでもスムーズになることを期待してやまない。

 ところでアメリカでは、雇用における年齢差別禁止は40年前(1967年)に法制化されている。人種、肌の色、宗教、性別または出身国を理由とする差別を禁止する公民権法第7編が制定された1964年から3年後に、雇用における年齢差別禁止法(The Age Discrimination in Employment Act of 1967, 以下ADEA)は立法化された。

 ADEAは、20名以上の労働者をもつ使用者に適用され、40歳以上の労働者を対象とする、中高年齢者の雇用保護と雇用促進を目的とする連邦法だ。同法は、採用、解雇、昇進、訓練、報酬または雇用条件に関し、対象労働者を差別すること、年齢を理由に労働者を制限、分離、分類し、雇用上の機会を失わせ、その他その地位に不利な影響を与えること、本法に従うための労働者の賃率を低下させることを禁止する。ADEAを含む一連の雇用差別禁止法を運用する雇用機会均等委員会の目が厳しく光っており、使用者が履歴書や応募書類に応募者の年齢や生年月日を記載させるのも同法の目的に反すると判断する。そのため、アメリカの応募書類に年齢や生年月日の項目はない。

 ADEAは雇用全般にわたる年齢差別を禁止しており、年齢別賃金や定年制も原則として認めていない。たとえば、同じ会社の同じ部署で同じ業務であれば、同期入社の社員は20歳であろうと60歳であろうと、通常は同一の賃金となる。ところが、企業のなかには、同じ賃金を払うのであれば、一般に覚えが早く動作の速い若者を雇いたいと考えるところがある。しかし、自分の会社で差別的な募集・採用をすると法律に違反するので、派遣会社に依頼をして希望の年齢層の社員を雇おう―という、いわば脱法行為を企てる企業が少なからず存在する。

 もちろん、派遣労働者の法律上の使用者となる派遣会社もADEAの適用を受け、法に反する差別的な顧客企業のオーダーに従って営業すれば当然のことながら罰せられるのだが、このような例が後を絶たないのが現状だ。

 そこで雇用機会均等委員会は1997年に雇用差別禁止法に関する指針を発し、派遣会社が顧客企業の差別的な要請を受け入れて派遣労働者の配置を行った場合や、派遣先が差別的な理由で派遣労働者の受入れを拒否したことを容認した場合、派遣会社が雇用差別法上の責任を負うことを明確に説明している(EEOC NOTICE Number 915.002)。

 雇用機会均等委員会の監視は厳しいが、法の網を抜けようとする企業は現在も少なくない。雇用における年齢差別を禁止する法律が制定されてから40年経った今も、年間1万6000件を超える同法違反の訴えが届けられ、雇用機会均等委員会が命令した金銭的賠償総額は5000万ドルを超える(2006会計年)。1997年から2006年の件数を比較しても、減少傾向にあるとはいえない(図表1)。雇用の場から年齢差別をなくすのがいかに難しいかがよくわかる。

 アメリカ以上に年齢に対するこだわりの強いのが日本の会社であり、日本の労働市場である。年齢差別禁止という概念を確立するまでの道のりは長く険しいものになるだろう。

<図表1 年齢差別禁止法(ADEA)にもとづく事案件数>
1997?2006年(会計年)

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*1 委員会が差別の存在を認めなかった事案、*2 委員会が差別の存在を認めた事案、*3 請求側が何らかの便宜または給付を受けた事案、*4 単位 100万ドル
(出所:雇用機会均等委員会(The U.S. Equal Employment Opportunity Commission,
http://www.eeoc.gov/stats/adea.html

著者プロフィール
藤川 恵子

インディペンデント・リサーチャー
藤川 恵子

大阪大学大学院法学研究科博士課程修了(博士(法学))。2001年4月より,株式会社リクルート・ワークス研究所客員研究員。専門は労働法・労働政策。特に欧米の労働市場に精通。主な著書に「IT時代の雇用システム」(共著・日本評論社、2001年)、「雇用政策の経済分析」(共著・日本労働研究機構、2003年)、"Non-standard Work in Developed Economies: Causes and Institute(2003)、「人材派遣会社の作り方・儲け方」(共著・ぱる出版、2004年)などがある。

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