人材ビジネスコラム

フランスの新聞救済、日本では?

本間 俊典[著]  / 2009-02-10  / ブックマーク はてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録

 最近目にした奇妙なニュースのひとつに、フランス政府が18歳の国民を対象に、新聞購読を1年間無料配達するというのがありました。若者の新聞離れを心配したサルコジ大統領が、「若いうちに新聞を読む習慣をつけるべきだ」と理由を述べたといいます。いいこと言うなあ。

 新聞制作費を新聞社側、配達費を政府が負担し、それ以外の救済策も含めて財政負担は3年で6億ユーロ(約690億円)になるそうです。新聞業界の単なる経営問題なら「特定の産業を支援するのはもってのほか」という批判が巻き起こるはずですが、新聞となると「活字文化」の問題がからんでくるので、新聞社OBの私も無関心ではいられません。

 若者が新聞を読まなくなっているのは、なにもフランス特有の現象ではなく、米国もそして日本も同じ。古くはテレビ、最近はインターネットの普及で、情報媒体は百花繚乱状態。その結果、新聞は速報性や価格面で他の媒体にとても太刀打ちできないハンディを背負うようになりました。
 今回の不況で、朝日新聞の08年9月中間決算(単体)が減収、営業赤字になって話題になりました。新聞業界では「勝ち組」とされてきた朝日でさえこの苦境ですから、他紙は推して知るべし。業界再編もいよいよ現実のものになるかもしれません。
 それなら、日本でも政府の支援が望めるかというと、それはできない相談でしょう。万一そんな話が出たら、「政府による言論統制が始まる」「記事を信用できなくなった」と猛烈な批判が沸き起こり、部数は一気に減少するはずですから。
 裏を返せば、新聞情報の客観性、中立性がまだ社会の信頼を得ているわけです。日本新聞協会などの調査でも、国民の8割以上が新聞情報を信用しているのに対して、フランスでは半分程度が「信用できない」としており、お国柄の違いは鮮明です。

 日本の新聞は第2次世界大戦で「大本営発表」を流し続け、政府と一緒になって国民をだましてきました。その苦い経験から、戦後は国家権力とは距離を置く「客観・中立報道」を基本としてきましたし、多くの国民もそれを支持しました。もし戦争に勝っていたら、日本の新聞もフランスのようになっていたかもしれません。
 ですから、政府支援による「無料購読」などあり得ない話になるのです。もっとも、日本の新聞発行部数はいわゆる一般紙だけで4656万部(08年)にのぼり、フランスの800万部の5倍以上もありますから、財政支援などできっこないのですが。
 ただ、新聞業界の窮状はともかく、新聞を含む活字文化の衰退については、国を挙げて取り組むべき重大な問題ではないかと思います。すでに有力雑誌が次々と廃刊、休刊を余儀なくされ、書籍にしても売れ筋はお手軽なノウハウものばかり。日本の将来が心配で眠れません

 活字の理解には、ある程度の想像力が必要です。テレビやネットのように、映像中心で想像力が不要な媒体に慣れ親しむと、活字は面倒でうっとおしくなります。脳も怠けグセがついて活性化しなくなるのではないか、と思われてなりません。
 でも、通勤電車で周囲を見渡すと、今は耳にイヤホンをした人が圧倒的に多く、本を開く人は数えるほど。あぁ……。

著者プロフィール
本間 俊典

「月刊人材ビジネス」編集委員、経済ジャーナリスト
本間 俊典

 72年一橋大学経済学部卒業。75年4月毎日新聞社入社。主に経済畑を歩き、機械、貿易、東証、外務省、経済企画庁(現内閣府)、通産省(現経済産業省)などを担当。経済部、エコノミストを経て2001年10月から編集委員。06年3月退社、4月から本誌編集長、経済ジャーナリスト。

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