アメリカの外国人労働者と外国人看護師
藤川 恵子[著]
/ 2008-07-18
/ ブックマーク
アメリカは移民国家だ。1920年代に移民政策を厳格化するまでは、寛容に移民を受け入れてきた。その後、1950年代の移民適格化、1960年代の国別割当制廃止などを経て、アメリカは不法移民の取り締まりを強化するとともに、合法移民の受け入れを制限するようになった。今日では、ITや医療従事者といった専門職や技術職を除いては、外国人がアメリカの就労ビザを取得するのは難しく、相当に厳しい審査を覚悟しておかなければならない。また、2001年の同時多発テロを境に、審査がいっそう厳しくなったのはいうまでもない。
一方、アメリカで働く外国人労働者の数は増えている。労働統計局が公表した2007年のデータによると、約2400万人の外国人がアメリカで就労しており、これは16歳以上の労働力人口の15.7%に値する(アメリカ労働省労働統計局、 2008年3月公表)。前年比では0.4ポイントの上昇だ。外国人労働者の約半数はヒスパニック系だが、アジア系の労働者も増加しつつあり、約22%を占めるまでになっている。職業をみると、全体的にはサービス職やメンテナンス職などが多い。
公的な統計からははっきりと読み取れないが、看護師や看護助手として働く外国人労働者も着実に増加している。
アメリカも日本と同様に看護師不足という問題を抱えており、保健社会福祉省の試算では、不足数は2010年には27万5000人になり、さらに2020年には80万人にも達するという(1)。そのため、外国人労働者の受け入れには慎重になりつつも、看護師は積極的に受け入れざるを得ないというのが現状だ。
主要な看護師の送り出し国はフィリピンだ。フィリピン人看護師は1980年代半ばまでアメリカで働く外国人看護師の約75%を占めていた。1990年代以降はカナダ、イギリス、インド、オーストラリアといった他国からの流入も増えたため、フィリピン人看護師の割合は減っているが、それでも依然として50%前後を堅持している。参考までに、2007年にアメリカの看護師免許試験を受験したフィリピン人看護師は2万1499人である(Inquirer.net, Apr 26, 2008,(http://globalnation.inquirer.net/news/breakingnews/view/20080426-132889/Filipino-nurses-seeking-US-jobs-down-by-7)。
少し説明を加えると、外国人がアメリカで登録看護師(registered nurse 日本の正看護師に近い資格)の資格を得るには、自国の看護師資格を取得した上でCGNFS試験やNCLEX試験に合格するか、アメリカで短期大学や大学の看護学科を卒業してNCLEX試験に合格して免許を取得しなければならず、決して容易ではない。
しかし、看護師が圧倒的に不足しているため、いったん免許を取れば、雇用先を探すのに困ることはない。登録看護師の免許さえあれば、ビザの取得は比較的容易で、外国人というハンデはほとんどない。また、登録看護師の賃金は高く、平均年収は約5万8000ドルで、一般事務の2万4000ドルや秘書の2万7000ドルよりもはるかに高く、社会福祉系の専門職であるソーシャルワーカーの4万4000ドルと比較しても高い(以上、O*Net Online (http://online.onetcenter.org/find/)。高給に引かれて、アメリカにやってくる外国人看護師も少なくないのだ。
日本でもインドネシアとの経済連携協定にもとづき、8月からインドネシア人看護師と介護士の受け入れが始まる。今年度の受入枠、看護師200人、介護士300人に対して、実際に応募したインドネシア人は看護師172人、介護士125人と少なかったが、これは日本での雇用条件が厳しいからではないだろうか。受入国としては、言葉や技術的な問題も考慮して慎重に進めていきたいところだろうが、現場の人手不足は逼迫した状況にあり、数百人単位では意味がないように思える。
最後に、気になる言葉と技術の問題について、筆者自身の経験から付け加えておきたい。筆者が居住するハワイ州の病院にも多くの外国人看護師が働いている。正確な数字はわからないが、少なく見積もっても入院病棟に勤務する看護師の約半数は外国人ではないかと思われるほど、外国人看護師の割合は多い。筆者が入院した際も、多くの外国人看護師にお世話になった。
技術の上でアメリカ人看護師と相違を感じることはまったくなく、英語での意思疎通に困ることもほとんどなかった。それよりも、入院中もっとも気になったのは、ナースコールを押してから看護師が来るまでの時間が長すぎることだった。ひどいときには30分以上待たされたこともある。
後で聞いた説明によれば、看護師の人数が足らないため、看護師1人あたりの負担が大きく、激務となっているらしい。つまり、重症患者には特別な配慮をするが、軽症の患者にまで細かく目を配る時間がないということだ。
この経験から筆者が感じたのは、何よりも患者ひとりひとりに目を配れるだけの十分な人数の看護人員を置くことが患者のQOL向上に不可欠ではないかということだ。アメリカと日本ではさまざまな点で事情が違うだろうが、この点は一致しているのではないだろうか。

(1)、出所:Barbara L.Brush,Julie Sochalski and Anne M.Berger,"Imported Care:Recruiting Foreign Nurses to U.S. Health Care Facilities."Home Affairs,23,No.3,2004

インディペンデント・リサーチャー
藤川 恵子
大阪大学大学院法学研究科博士課程修了(博士(法学))。2001年4月より,株式会社リクルート・ワークス研究所客員研究員。専門は労働法・労働政策。特に欧米の労働市場に精通。主な著書に「IT時代の雇用システム」(共著・日本評論社、2001年)、「雇用政策の経済分析」(共著・日本労働研究機構、2003年)、"Non-standard Work in Developed Economies: Causes and Institute(2003)、「人材派遣会社の作り方・儲け方」(共著・ぱる出版、2004年)などがある。
関連記事
- 労働分野も「ジャパン・パッシング」に(2009-09-10)
- 外国人労働者 約49万人 全体の約3割が派遣・請負労働者 08年厚労省外国人雇用報告(2009-01-26)
- カムバック!「潜在助産師」さん(2008-10-27)
- 派遣・請負「外国人」4年連続増加 「製造業」が9割を占め、15万人超が働く(2007-03-26)
- キャリアブレインが理念とロゴを刷新 医療業界発展のため、事業の質高める(2007-01-10)




